前回の記事の続きになります。


 一部界隈で勃発した理論派 vs 感覚派 という構図は実はその言葉の通りではなく、理屈派、客観的に(科学的)言語化した説明(真偽は問わない) vs感覚派、 主観的に言語化した説明(真偽は問わない)まで没落?しているのではないかというのが前回の論旨でした。
 
② 理屈派の科学的妥当性について

 理屈派の言語化した説明の真偽について、どこまで科学的妥当性があるのか?という点に注目してみようと思います。ここでどうしても触れなければならないのが某A氏。この記事をご覧になっている方の多くは説明不要なのでしょう。炎上を想定しているであろう論調を主に技術動画を定期的にupしている方ですね。理論派 vs 感覚派の論争が巻き起こった当事者であり、今回理論派について考察するにあたってどうしても彼の考察動画を論評する必要があります。
 本件をスペースでやるぞと言われてから初めて彼の動画を視聴しました。彼を取り上げることは避けられない以上情報収集は必須なため、彼のupしている動画はある程度は視聴しました。その上でまず抱いた感想は、

おもったよりまともなこといっている"ように"きこえるな

でした。批判の着眼点として正しいところもあるし、そこに至るまでの過程も元芸人らしく、そういったテクニックをところどころ用いて説明している。これは、はまる人ははまるだろうなというのが率直な感想でした。もちろん彼を完全に肯定しているわけではなく、あくまでそのように聞こえるだけで中身は少々怪しいものです。
 彼の論調の特徴として、

その科学的根拠も一部正しい内容が混ざっている

という点です。これが彼に対する論調を完全に否定する人間がいなかった、厳密には、間違いを指摘できる人間がいなかった理由になります。いくつか具体例を示します。


【グリップを握る握らない論争】
 
 https://www.youtube.com/watch?v=ib9RkCaaoEA

 直近に勃発したMコーチとの論争ですね。これについては、グリップを握るという動作が主体ではなく、スイングの二次的動作としてグリップを握ることになるんだというのがA氏の理屈でした。これ自体は、決して間違いだと断言できる論旨ではないように思えます。少なくとも私はこの理屈については割と肯定派で、わざわざ握る動作を先行させる意味はあるのか?とは思います。
 ただ、その二次的動作を「反射」と表現すると全く意味が違う表現になります。そもそもそのような反射は存在しないですし、仮に存在するとしても証明されていません。
 中にはそんなのただの言葉遊びだろと訴える方もいるでしょう。ただ論理的に物事を述べるにあたり、その言葉の定義が間違っているとそのすべてが真と言えなくなる可能性を生じてしまうのが科学です。彼が理論で物事を語っている以上はこの指摘についても科学的であるべきです。


【みまパンチ、はりパンチについて】
 
https://www.youtube.com/watch?v=wb9DZJfnWbs

 肩関節の内旋位を用いた運動動作だという理屈でした。内旋位mainの動作なのかは若干懐疑的ではありましたが、これ自体は一つの理屈としてあり得るものかと思います。
 ただその内旋位を使用する根拠として、可動域が大きくなることによって威力が増すと論じております。関節可動域の大小と、発生する力の大小は必ずしも一致しません。ここに論理の飛躍が隠れています。
 また、そこで彼が引用元として出した文献はただの学会抄録です。一度でも学会発表をしたことあれば、ひいては一度でも論文というものをしっかり触れていれば、このようなことはまず起こり得ません。学会発表はあくまで身内内で推敲したものを発表しているだけので、必ずしもそこに科学的妥当性はありません(少なくとも、一次資料と呼ばれる文献は、査読が必須でしょう)。


【下回転が沈む理由について】

https://www.youtube.com/watch?v=12KzrKpi7xU
 
 2021年にupされた動画です。逆マグヌス効果とコアンダ効果によって生じる力によるものだという論旨です。流体力学の観点に基づいて上記の事象の理由を断言した動画になります。
 この動画がupされたちょうど同じくらいの時期にフォークボールが沈む理由が逆マグヌス効果によるものだと東工大の研究チームが発表しておりました。今まで、逆マグヌス効果自体は存在するだろう、ただそこまで影響を及ぼすものなのか?という論調だったものが、初めてスパコンを用いて証明することができたというのが、この発表のセンセーショナルな部分だと認識しております。
 流体力学については私自身は素人なので詳細なことは不明ですが、マグヌス効果もコアンダ効果というのも実在しており、その説明自体もネットによく転がっている典型的な説明でした。おそらく先の発表から着想を得たのではないかと邪推しますが、それであれば、

① 野球ボールと卓球ボールで違いはないのか(同一の効果があると断言できるのか)?
② 仮に逆マグヌス効果やコアンダ効果が生じているとして、ボールが動くほどの力が台に触れるまでの短時間に生じるものなのか?
③ どのようにそれを実証したのか?(スパコンまで用いてようやく証明した事象なので)
④ そもそもどうしてベルヌーイの法則を用いることができないのか?

 という私自身が抱いた批判的吟味を、是非答えていただければと思っております。


【サードパワー理論、相対的スイング理論】

https://www.youtube.com/watch?v=kg1qKNfpdE8
https://www.youtube.com/watch?v=QEwDz90lEjg
  
 彼の「理論」となる論調ですが、これはさすがに擁護のしようがなく完全に間違いですね。。。遠心力というのはあくまで慣性系でのみ働く向心力に対する疑似的な反発力であり、非慣性系では全く存在しない力になります。遠心力が実在してしまったら円運動は発生しなくなってしまいます。
 おそらく地面を蹴り上げる・・・のような反作用/反発力から構想を得たのでしょう。これは物理学を学び始めた初学者によくある誤解になります。正直教科書をみれば一目瞭然なのですが、彼はネットが全ての学のソースになっているようなので、ネットから引用しておきます。

下部の向心力と遠心力の項をみてください
https://etd.ohiolink.edu/apexprod/rws_olink/r/1501/10?clear=10&p10_accession_num=osu1386034522

 ただ、遠心力を使うという表現については必ずしも間違いではないかと思っています。野球やゴルフ、テニスなどの他競技では遠心力を感じてスイングを行うという指導法も存在します。そういう点で遠心力を使用する理屈を否定することはできないです。ただ、慣性系にのみ働く遠心力を用いることは、感覚的な部分に完全に依存する他ありません。そういう点では彼もまた、感覚派の一人なのでしょう。

 他にも述べてみろと言われたらまだまだ批判的吟味を述べることができますが、具体例についてはこれくらいにしておきます。
 もちろん科学的に正しいことを述べてもいます。先述のマグヌス効果、コアンダ効果は流体力学における重要な項目の一つですし、動画内のコメントで無知だと批判されていた引力と遠心力の合力が重力であるという点は、国土地理院のHPをみても明らかに正しい事象です。

IMG_0829 (002)


https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_gravity.html

 先に述べた通り、着眼点としては決して間違いばかりではなく、対象となった技術動画の説明がおかしいこともあります。ただ彼の問題として、

体系だった勉学がなされておらず、「つぎはぎ」の知識で物事を論じている

点が挙げられます。正しい知識をネット拾い上げることはできるから科学的に正しいところがでてくる。ただし正しい批判的吟味が行えない(そのトレーニングを明らかに積んでいない)ので、その使用法や発展形/限界点を把握することができない。これがA氏の理論動画のからくりではないかと感じております。

 ここまで某氏の科学的妥当性について論評を行いました。ここまで読むと理論、理屈に至る科学的妥当性についてはかなり怪しいことが分かったかと思います。そして、彼のmainの理論が感覚派の意見である以上、当初の理論派 vs 感覚派 論争は

 感覚派 vs 感覚派

 までその表現が変化してきていることにも気づかれるでしょう。

 ただその着眼点自体は必ずしも間違いではないこと、この点において彼の正しさが表れることを事前に宣言しておきます。そして、そもそも対立構造になっていること自体が誤りであることへと繋がります。次回に続きます。