前記事の続きです。必ず目を通してください。


  前記事では、狭義でも広義でも「肩関節」の中心は肩甲上腕関節であり、その次に肩甲胸郭関節が補助的に重要になる ということをまとめました。
今回はまず、上記に対する反論意見から述べていこうと思います。

④関節と筋肉の関係性
   2006年に報告された川井らの論文によると、肩甲胸郭関節に関与する筋群(前鋸筋・菱形筋・僧帽筋など)と握力には正の相関が存在するということが示されました。以前より肩甲上腕関節関連筋群と握力に正の相関を認めることは報告されていましたが、この報告で補助的な役割が大きいだろう肩甲胸郭関節にもその筋力によって肩甲上腕関節のような正の相関を有するとされました。(肩甲胸郭関節に主に関与する主要筋力と握力との関連性:HHDと握力計を用いて 川井ら 2005 理学療法会
   つまり、単一的に肩甲上腕関節が肩関節の主体であり、肩甲胸郭関節が補助的な役割のみとはいえないかもしれません。肩甲胸郭関節にも、動きの強さと関係があるのではないかと示唆されたためです。

   ここで、肩関節(肩甲上腕関節)と肩甲骨(肩甲胸郭関節)の運動において用いられる主要筋を述べていきます。
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【肩関節】      
・屈曲:三角筋前部、大胸筋上部、烏口腕筋
・進展:広背筋、大円筋、小円筋、三角筋後部
・外転:棘上筋、三角筋中部
・内転:広背筋、大円筋、大胸筋
・外旋:棘下筋、小円筋
・内旋:肩甲下筋、大円筋、大胸筋、広背筋
・水平屈曲:大胸筋、三角筋前部
・水平進展:三角筋後部、小円筋、棘下筋
【肩甲骨】このHPがわかりやすいと思います。
・挙上:僧帽筋上部・中部、肩甲挙筋、菱形筋
・下制:僧帽筋下部、小胸筋(上方回旋時)
・上方回旋:僧帽筋中部下部、前鋸筋(外転時)
・下方回旋:菱形筋、小胸筋(外転時)
・外転:前鋸筋、小胸筋
・内転:僧帽筋中部・下部、菱形筋

   ものの見事に支配筋群が異なることがわかります。この各々異なる筋群が、握力という一見肩には関係ない部位に影響を及ぼす可能性を示唆しました。なお、前記事でも挙げた Kinematics of the Clavicle and Scapula   W.Sahara K Sugamoto Jpn J Rehabil Med 2016;53:750-753  と上記のHPの肩甲骨周囲の主要筋は少し違いがあります。しかし、今回の論点は肩関節と肩甲骨、つまり肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節に関与する筋は大きく違うということを述べたいだけなので、主要筋の差異には言及しません。また、肩甲骨の動く方向も今回の論点とは一切関係ないので無視していただいていいです。重要なのは赤文字のところだけです。

⑤肩甲骨、肩甲胸郭関節の可動について
   以上のことから、肩甲骨、つまり肩甲胸郭関節が動くためには主に二つの動かし方があることがわかりました。つまり、
1,肩甲上腕関節(肩関節)の動きに追随して動く  関節運動主体
2,肩甲胸郭関節の周囲筋によって動く  筋収縮主体

   そもそも肩甲骨自体が、関節(骨と骨のつなぎ目)が少なく、一般的に肩甲骨とされている「羽」の部分は筋肉意外接していないということからもわかるとおもいます。下の図の青丸が骨との接地面です。なお、俗に言う「羽」の部分が肩甲胸郭関節ということはもうお分かりかと思います。

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   では、肩甲骨打法は関節運動主体なのか、筋収縮主体なのか。

   この問いに答えるためにもう一つ問いかけをします。

   卓球のスイングの中心は肩甲上腕関節(肩関節)か、肩甲胸郭関節(肩甲骨)か?

  これの答えはもちろん、肩甲上腕関節、つまり肩関節が主体と答えるでしょう。肩甲骨主体だと思う方は是非肩甲骨のみ動かして、つまり肩関節は動かさずに卓球をしてみてください。不可能です。
   つまり、卓球のスイングが肩関節主体、肩甲上腕関節主体である以上、肩甲骨打法も肩関節運動主体で考える方が自然です。つまり先の問いの答えは肩甲骨打法は関節運動主体であるということになります。
    肩甲骨のみが動く、つまり筋主体で動く範囲というのは案外狭い範囲であり、だからこそ筋肉を使うにしてもまずは関節運動をつかうことが優先されます。
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   日本整形外科学会やリハビリテーション学会が出した「肩甲骨」の動きはこの程度です。しかし、例えば腕を外転させた時に付随して肩甲骨はどれほど動くでしょうか。上肢を挙上するに従っ て約 50〜60°上方回旋,15〜20°後傾します。ここからも肩甲骨は肩関節運動に付随して動かすことが主体ととっていいかと思います。


   なぜ、ここまで関節運動主体であることを推すかというと、この原則を知らないまま指導を行うと怪我をする可能性があるからです。肩甲骨を動かすことだけに固執すると、筋主体で肩甲骨を動かそうとする選手が必ず現れます。筋主体の肩甲骨打法はその可動性の悪さから十分な効果を得ることはできず、さらに変な体の使い方をしてしまうので、筋損傷などの怪我のリスクがあがってしまうかとおもいます。
   そのため、肩甲骨打法を教えようとしている指導者の方は、必ず肩甲骨打法は肩関節運動主体、肩甲上腕関節主体であることを理解して指導してください。


次回は、具体的な話にしたいと思います。